Amazonの新しいリーダーシッププリンシプルは王者の苦悩を反映している

GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と呼ばれる巨大IT企業は、その独占的地位から規制当局からの厳しい監視の目にさらされ、世間からの儲けすぎなど否定的な意見を浴びています。そうした中、アマゾンは2つの新しいリーダーシッププリンシプル(Leadership Principles)を追加しました。

Amazonがこれだけ巨大になった今も組織を統制して動かしていく原動力、それがリーダーシップ・プリンシプルと呼ばれる14個の行動指針です。アマゾンでは全ての従業員をリーダーとして捉え、全ての人がリーダーシップを発揮してカスタマーの要求に応えることが求められます(たとえ新入社員であっても)。

これらの指針が徹底して守られているからこそ、これだけのスケールにまで成長できたといっても過言ではありません。

今回の2つのリーダーシッププリンシプルが持つ意義

既存の14のリーダーシップ・プリンシプルが、アマゾンの日常業務をどのように導いているかを考えると、今回の追加は大きな意味を持ちます。アマゾンがリーダーシップ・プリンシプルのリストに新しく追加するのは、2015年に”Learn and Be Curious”を14番目のプリンシプルとして追加して以来のことです。

また、これら2つの新しいリーダーシップ・プリンシプルが追加されたタイミングは、ジェフ・ベゾス氏がCEOを退任し、Amazon Web Servicesのチーフであるアンディ・ジャシー氏に引き継ぐほんの数日前でした。

この投稿では、新しく加わったアマゾンの2つのリーダーシップ・プリンシプルとその背景について説明していきます。

地球上で最高の雇用主になる努力

 

リーダーは、より安全で、生産性が高く、パフォーマンスを高め、多様性があり、より公正な職場環境を作るために毎日働いています。リーダーは共感を持ってリードし、仕事を楽しみ、他の人が簡単に楽しめるようにします。リーダーは常に自問します「従業員は成長していますか?権限を与えられていますか?次の段階に進む準備ができていますか?」リーダーは、Amazonであろうと他の場所であろうと、従業員の個人的な成功に対するビジョンとコミットメントを持っています。

これら2つの新しいリーダーシッププリンシプルは、ベゾス氏がアマゾンのCEOとして最後に出した株主への手紙の中で語った、アマゾン従業員への対応に関するテーマに沿ったものです。

ベゾス氏は手紙の中で、「リーダーシッププリンシプルは、カスタマーにこだわることから始まるが、ここまで大きくなったIT企業は130万人の従業員に焦点を当てる必要がある」と述べています。さらに「私たちが成し遂げてきたことにかかわらず、従業員の成功のためのよりよいビジョンが必要であることは明らかです」と書いています。

株主への手紙の中で、ベゾス氏は2021年の年初に行われたアラバマ州にあるアマゾンの倉庫のため組合を結成するかどうかについての従業員による投票を取り上げました。

会社の従業員の不適切な取り扱いに立ち向かうため労働組合を立ち上げるという声がでていたのですが、従業員投票では大差で組合が否決されました。

組合の否決は会社に取って有利な決議であったことは間違いありませんが、ベゾス氏は「私たちがこれまで成し遂げたことにもかかわらず、従業員の成功のためには、より良いビジョンが必要であることは明らかです」と語っています。

さらにアマゾンの目標は常に「地球上で最も顧客を大切にする企業」でありその目標は変わることはありませんが、「地球で最も優れた雇用主であり、地球で最も安全な職場」を目指すことがミッションとして加わります。

多くの企業は 「人材こそが我社の資産」と標榜しますが、どの会社も言っている決まり文句となっています。しかし、アマゾンやその他多くの企業に取って従業員が最大のコストであることは事実です。

「地球上で最高の雇用主になるよう努力する」というのは、「人材こそが我社の資産」というのと異なるアプローチなのでしょうか?優秀な人材獲得競争がかつてないほど激化している現在、このアイデアは必要不可欠なものとなりつつありますが、単に精神論で人材こそが資産と標榜することとは異なり、客観的なアウトプットが求められます。

コロナ禍の2021年4月、インターネット通販の受注や配送、荷物の仕分けなどを担う人材を対象に、米国内で働く従業員のうち50万人超の時給を最大で3ドル(約330円)引き上げると発表しました。これは前述したアラバマでの組合投票に先駆けるもので、政治的な対応なのか、あるいは、地球上で最高の雇用主になるアクションの一つなのか、今後の経営施策が気になるところです。

成功と規模には幅広い責任を伴う

 

私たちはガレージから始まりましたが、もうそこにはいません。私たちは大きく、世界に影響を与えますが、まだ完璧にはほど遠いです。私たちは自分の行動の二次的影響についてさえも謙虚で思慮深くなければなりません。私たちの地域社会、地球、そして未来の世代は、私たちが毎日より良くなることを必要としています。私たちは毎日、カスタマー、従業員、パートナー、そして世界全体のために、より良くなるという決意から始めます。そして、明日はさらに多くのことができることを知り、毎日を終わらせなければなりません。リーダーは消費する以上のものを創造し、常に見つけた方法よりも優れたものを残します。

2つ目のリーダーシッププリンシプルは、シアトルに本社を置くアマゾンに対する長年の批判に応えるもので、ベゾス氏が顧客を満足させることを約束して急成長を遂げたにもかかわらず、従業員が住む地域社会や環境など、他の構成要素を軽視することがあったというものです。

私もコロナ前に何度かシアトルを訪れることがありましたが、アマゾンの城下町のような所ですが、近代的できれいな町並みとは対象的に町の至る所に路上生活者を見かけます。

アマゾンの成功と共に周辺の賃貸市場や物価価格が大きく押し上げられ、これまで普通に生活していた町の人たちや学校の先生など、物価高で家賃さえ払えなくなり路上生活者になる場合もあるようです。

ベゾス氏は、アマゾンが巨大になるにつれその存在感が世界に与える影響がかつてなく大きくなっていることを認めています。一方、アマゾンはずっとスタートアップ企業でありたいと考えています。このため、社会的地位を立場を重んじるこれまでの大手企業とは異なった行動パターンが社会の批判の対象になっています。

これまで何度もアマゾンを含む巨大グローバルIT企業が、営業する各国で規模に見合った税金を支払っていないという記事が取り上げられました。ジェフ氏本人も所得税をほとんど払っていない年もあったと報道されています。

合法的に納税コストを抑えるのは経営手法の一つではあるが、ここまで大きくなった企業に対する社会的な責任を求める声はいっそう強くなっています。

最後に

ネット通販最大手のアマゾンは、リーダーシッププリンシプルを通して、従業員が同じ価値観で行動し、顧客満足度を高め、ビジネスを成長させ、成功しても自己満足に陥らずにさらに磨きをかける仕組みになっています。

これまでの14の行動指針に加わった2つの新しいリーダーシッププリンシプルは、顧客の視点に、従業員と社会の視点を追加したことが評価できるでしょう。

こうした行動指針が130万人の従業員全体に浸透するのか、新しいアマゾンのリーダーであるアンディ・ジャシー氏の真価が問われます。


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